― 創業から25年が経ったいま、人材を育成するに当たり、どういったことにこだわっていますか。

　「こころ」と「技術」「身体」を磨くこと、すなわち、「心・技・体」の成長バランスを意識した能力開発を行っていくことにこだわっています。「心・技・体」のうち、「技」は知識や技術のことで、人はこれを磨くことによって、「価値」ある人間になることができます。そして、「体を磨く」というのは、健康に気を遣うこと。過去の私のように、どんなに仕事をがんばっても、それで倒れてしまったら意味がありません。活動エネルギーを内側から湧出できるようにする健康管理も非常に大切な能力の一つです。

　そして私がもっとも大切だと考えているのが、「心を磨くこと」です。リーダーとして上に立つ人ほど、老子が説く最高のリーダー像「太上」を目指すべきだと私は考えます。しかし実際、会社でリーダーや役職者に抜擢される人は、そもそも実務担当者として多くの成果をあげた、いわゆる「仕事ができる人」であることが多いのですが、必ずしも「太上」型のリーダーであるとは限らないと思うんです。

― 詳しく聞かせてください。

　実務担当者が昇格して役職者になると、キャリア上では「自身の能力と経験で成果をあげていく」ステージから、「人を介してチームや組織の成果を生み出す」ステージへと大きくシフトします。ところが、このステージに移っても、自身の能力と経験に基づく解こそが唯一であることを疑わず、それを他者に押しつけ、成果が出なければ「仕事が出来ない奴」というレッテルを相手に貼り、追いやってしまう。そんな役職者は意外に多いものです。そうした役職者の存在は、組織の成果創出をも停滞させています。

　また、役職者として権限や既得権を手に入れたとたん、自身の利益を優先する判断や行動を取るようになる人も増えてきます。どうやら、人は頭が良くて能力があっても、「心」を磨けていなければ、自分個人の利得に走っていってしまう傾向にあるようです。ですから、当社では「心を磨く」ことこそが、最高のリーダーを生み出すためにもっとも大事なことと捉えているのです。

― 今後のビジョンを聞かせてください。

　「一人ひとりが自立すれば、人も社会も成長し続けられる」という想いを実現していくことです。当社の志は、「一人ひとりが自分のポテンシャルを活かし、自ら納得できる生き方で社会的価値を生み出し、喜びを分かち合える社会を創る！」です。人は、自らの哲学を持って、学び、気付き、実践し続けることで、節目節目で「覚醒」し、成長し続けることができます。その過程で生まれた価値ある商品やサービスが、誰かの役に立てている、誰かに貢献できている……。そんな喜びにつながったとき、自分個人の喜びをはるかに上回る大きさの喜びを感じると思います。そして、その喜びを悟った人のエネルギーと成果創出力は、計り知れないものに広がっていきます。そのような喜びを分かち合えるつながりと連鎖を、これからも創り出し続けていきたいですね。良い意味で、会社と個人はパートナーの関係で尊重しあえると思っています。

― 読者へのメッセージをお願いします。

　「心・技・体」の成長バランスを意識した能力開発をぜひ意識してほしいです。その取り組みを続ければ、仕事も人生もかなり充実させることができると思います。そして、人の上に立つ人には、次のような人物像をぜひ目指していただきたいと考えています。その取り組みに向き合う人と組織には、当社が全力でサポートします。

「太上は下これ有るを知るのみ」～老子～
最上の君主は、人民はその存在を知るだけである。
最も優れた君主の仕事は自然な方法で人々を導く。
君主として君臨するが、人に命令したり人を操ったりしない。
人々を操ろうとしないのに、人々は自然に影響を受ける。
人々を束縛しないのに、人々は太上の影響力から逃れようとしない。
功績が上がり事業が完成して人民は、みな我々は自然と事業を完成させたと言う。