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ニッポンの社長 > インタビュー > 顧客主義を追求する社長 > 株式会社IDOM(旧:株式会社ガリバーインターナショナル) 名誉会長 羽鳥 兼市

― そこでエンドユーザーには販売せず、「買取専門」の会社を立ち上げたわけですね。

 買い取った車は、全国のオークションにすぐ出品し、在庫をもちません。オークションというのは、中古車販売会社の間で売買する場です。株式会社IDOM(旧:株式会社ガリバーインターナショナル)の本部は「この車のこの年式だったら、いま北海道のオークション会場で一番高く売れる」といった具合に、全国の最新情報を収集しています。それに基づいて、そのタイプの車の買取案件があった場合、北海道のオークションに出すことを前提に、値付けをするわけです。この査定は本部一括方式なので、全国どこでも、同じ種類の車で、似たような状態なら、同じ時期には同じ値段です。われわれの在庫リスクや販売経費はないので、高く買い取れる。「値付けが透明で高く買い取ってもらえる」ということで、お客さんからの信頼を得ることができたんです。

― 設立当初から全国展開を目指していたと聞きました。

 全国のオークション情報を集めなければいけませんからね。設立してすぐに、「5年以内に全国500店舗を展開する」と目標を立てました。中古車業界のプライスリーダーになって流通革命を起こす意気込みだったので、この目標を全員で毎日唱和。といっても、最初は私を含めて2人だけでしたけれど(笑)。

 掘っ建て小屋のような倉庫を利用した、郡山市の1号店でね。目標通り、5年後の99年9月に500店舗を達成しました。初心を忘れないように、現在は全店舗に1号店の写真を掲げさせています。

― 競合他社はエンドユーザーへの販売で利益を上げているので、なかなか「買取専門」という業態を発想することは難しかったようですね。

 発想というよりも“覚悟”がいりますね。いまだから話しますが、設立当初のことです。買い取った車をオークション会場に運ぶためにキャリアカーに載せるのですが、そのなかに当時人気の車種があって、「コレは降ろせ! 小売に出そう」なんて言ったことが、2回ぐらいありました。でも反省しましてね。キャリアカーに載せるときは、文字通り目をつぶることにしました(笑)。とにかく在庫をもたない経営に徹しようと。

― いまはエンドユーザーへの小売も展開していますが、これも「在庫減らし」という意味合いが強いのでしょうか。

 ええ。すぐオークションに出すといっても、開催日まで待たなければいけないし、会場まで運ばなくてはいけない。7~10日はどうしても在庫になります。この間にエンドユーザーに売れれば、われわれには在庫減らしになり、エンドユーザーにとっては安く買えるチャンスになる。そこで、「ドルフィネット」というインターネット上での小売を98年に始めました。「車を見ることができず、試乗もできない。売れるはずがない」。役員や社員からは猛反対を受けました。でも、私は違うだろうと。

― なぜ、売れると確信できたのですか。

 お客さんは現物を見ることより、プロが調べた情報を知りたいはずだからです。中古車の不具合を調べるには、車の下にもぐりこんでオイル漏れのリスクなどを確かめる必要があります。でも、お客さんはそんなことはしない。専門知識がないのだから当然です。そこで「ドルフィネット」では、過去の修理歴から小さなへこみまで、専門家が調べた詳細な情報を開示。さらに、国産車には購入から10年保証をつけました。これほどまでの長期保証は、おそらく業界初。現物を見たとしても、こんな安心は得られません。

― 売る側にとっては、販売コストが削減できるわけですね。

 私は若いころに中古車を月50台売った記録が自慢だったのですが、昨年10月、うちの島袋君が月52台売りましてね。ついに抜かれてしまった(笑)。しかも、彼は買取の仕事がメインで、小売はその合間にやっているんです。

 小売の商談をしている間、現物の車は目の前にありません。たとえば、大阪で買い取った車を東京のオークション会場に運ぶため、東名高速を移動中だったりするわけです。商談がまとまれば、高速道路の途中で車を降ろす。だから、「わが社の展示場は東名高速だ」なんて言っているんです。

― 昨年7月、千葉県習志野市に敷地約2万7000㎡の大型店舗をオープンしました。買取から販売へと軸足を移したのですか。

 これも発想は「オークションに出すまでのモータープール」なんです。全国9ヵ所に出しているアウトレット店も同じ。ネット、大型店、アウトレットの3本柱で小売を展開していますが、考え方としては「在庫減らし」なんです。

― 成熟市場を攻略するための秘訣を教えてください。

 どうすればお客さんのためになるのかを必死に考え抜くこと。そして、従来の常識を疑うことです。ユニクロだって、昔ながらの衣料品業界であんなに成功したのは、そういう発想があったからでしょう斜陽産業といわれている業界ほど、チャンスがあると思いますよ。

 それから、仕事に関係のないことはなるべくしないこと。ちょっとお金ができると、すぐ遊びに使ってしまう経営者もいますが、それでは成功しません。ロケットで地球を飛び出すとき、できるだけ重量を軽くしなければ、大気圏を突破できないでしょう。本当に成功したいなら、経営のことだけに集中するべきですよ。

著名経営者

  • エステー株式会社

    鈴木 喬
  • テンプスタッフ株式会社

    篠原 欣子
  • シダックス株式会社

    志太 勤
  • 株式会社IDOM(旧:株式会社ガリバーインターナショナル)

    羽鳥 兼市
  • 伊那食品工業株式会社

    塚越 寛
  • 株式会社スタジオジブリ

    鈴木 敏夫

プロフィール

  • お名前羽鳥 兼市
  • お名前(ふりがな)はとり けんいち