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ニッポンの社長 > インタビュー > 世の中に独自の価値を提供する社長 > 一般社団法人 日本グリーフ専門士協会 代表理事 井手 敏郎

― 井手代表が協会を立ち上げた動機を教えてください。

 私自身、幼少時に喪失体験をしています。アクシデントで左目に損傷を負い、視力をほとんど失ってしまいました。自身が味わった喪失感を乗り越えられるようになりたいと思ったことが、最初のきっかけです。

 また、高校時代のアメリカ留学で、デスエデュケーション(死生観教育)に触れ、クラスメートが抱える大きな喪失感に対して、自分に何ができるかを考える機会がありました。それを境に心理学、哲学、思想、コミュニケーションといったさまざまな考え方の理解を深めていきました。そんな中、私は仏門を志した時期もありましたが、自分の信仰に疑問を感じて、20年来信じてきた信仰を手放した経験があります。40歳を過ぎてから、死別による反応の複雑さを知り、心理職として関わりたい、お互いが支えあえる場所を作りたいという想いが次第に強くなっていきました。

 あからさまに気持ちを表出することがタブー視されやすいのは日本の文化の特徴ですが、誰にも言えない気持ちを抱えながら生きることは大変つらいことです。そこから自殺や依存症の問題が生じるケースも少なくありません。どんな気持ちでも、ありのままに表現でき、これからに想いを馳せることができる居場所を増やしたい、より多くの方の人生の大きな転機に立ち合わせて頂きたいということが、当協会を立ち上げた動機です。

― その上で、協会としてどのような思いを大切にしていますか。

 深く繊細な内容を誰よりもわかりやすく伝えたいと思っています。またクライアントは、支えを必要としながら、心理的、時間的、経済的な壁で、専門的な機関への関わりを躊躇しがちです。その壁を超えるために、クライアントにとって負担の少ない効果的な関わりを追求しています。また、いわゆる専門家ではなく、人として共に歩いていける人材を輩出したいです。

 私たちの人生は喪失の連続といっても過言ではありません。会社の解雇や離婚、怪我や病気、失恋もそうでしょう。それらの喪失感すべてにグリーフの概念を用いることができます。

 つまりグリーフケアに触れることで、より多くの人がつらい哀しみに折り合いをつけることができると考えています。死別や離別というテーマを切り口に、日頃の人間関係やコミュニケーションの改善に活かして頂ける捉え方や関わり方を伝えていくのも日本グリーフ専門士協会の役割だと思っています。

― 今後のビジョンを教えてください。

 2018年の厚生労働省の人口動態統計を見ると、1年に136万人以上の方が亡くなっています。1日に換算すると約3,700人です。亡くなった方に対して、深く悲しむ方が仮に3人いるとすれば、毎日約1万人以上の方が身近な人の死別を経験し、なんらかの痛みを抱えているということになります。

 協会が、人との別れに寄り添う「グリーフ専門士」と動物たちとの別れに寄り添う「ペットロス専門士」の資格を付与することで、受講者の一人一人が高い意識をもって研鑽に励んでいます。専門士は、日本をはじめ、アメリカ、カナダ、オーストラリア、ドイツ、インドネシアにも広がり、約700人となりました。

 それらの専門士を中心に、協会の理念である「哀しみが打ち明けやすい、あたたかい社会を広げる」ことを目指して、各地での活動に加え、毎週オンラインによるわかちあいの会を開催し、葬儀社や自治体とも連携した遺族相談も行っています。いつでもどこでも語れる場を作り、喪失体験をされた方々が自分らしい人生への一歩を踏み出すお手伝いをさせて頂くことが私たちの役割です。そのために、専門士の資格取得だけで終わらせることなく、学びを深めながら活動の場をさらに広げることが重要だと思っています。

 仲間達と協力しながら、死別によって向き合うことができない、また見たくない「傷」が、やがてその人にしか見ることができない「景色」へ変わっていくことを願い、今後もグリーフケアに取り組んでいくつもりです。

■ 井手 敏郎 (いで としろう)

1971年東京生まれ。幼少時の喪失体験とアメリカ留学の際のデスエデュケーションとの出会いをきっかけに、喪失を支える心理学、哲学、コミュニケーションの研究を重ねる。アドラー心理学をベースにしたプロコーチ養成スクールを卒業。国内外の複数のグリーフケア団体で悲嘆支援やカウンセリングを学ぶ。2015年4月に一般社団法人日本グリーフ専門士協会を立ち上げ、代表理事に就任。個人セッションも続けながら、グリーフケアスクールの代表として死別悲嘆の支援者を輩出している。都内の精神科クリニックにて、自死遺族、DV被害者へのグリーフケア・プログラムも担当した。
アライアント国際大学カリフォルニア臨床心理大学院(日本校)にて米国臨床心理学修士号(MA)を取得後、公認心理師としても活動する。著書に『大切な人を亡くしたあなたに知っておいてほしい5つのこと』(自由国民社)がある。

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プロフィール

  • お名前井手 敏郎
  • お名前(ふりがな)いで としろう
  • 出身東京都
  • 身長173cm
  • 体重62kg
  • 趣味合気道、八光流柔術