「集合型」の研修では、個別の問題を解決できない

― 事業内容を教えてください。

　現在は、中小企業の営業スタッフ向けに研修を行う事業をメインに手がけています。研修と言うと、受講者を大きな会議室に集めて一方的に話す「集合型」の研修をイメージされる人が多いかもしれませんが、私は1on1で行う「個別型」の研修にこだわっています。じつは私自身、かつて集合型の研修を行っている会社に勤めていたことがあり、実際にそのような研修を開催した経験もあります。研修で学んだ内容を実践し、売上がアップする受講者は当然おり、一度に多くの受講者にレクチャーできるメリットもあるため、集合型自体を否定するつもりはありません。しかし、あくまで私の実感ですが、10人受講したとして、それが実際の成果として表れるのが1、2人ということがあります。その人たちは、もともとスキルや経験値が高く、新しい学びを実践できる素地をすでに持っている場合が多いのです。一方で、残りの8、9人はテクニックやノウハウを学ぶ以前に個別の問題を抱えているケースがあり、なかなか成果につながらない場合があります。その理由はさまざまでしょうが、そうした場合はどうしても対話を前提とした個別型でしか解決できないのです。

　私はそれを、ある事例から学びました。

― どのような事例ですか。

　不動産売買の仲介を手がけている経営者からの依頼で、「この営業マンを個別で研修をしてほしい」というケースがありました。その営業スタッフは入社して１年の20代男性で、直近で成果が出せていない状況が続いていたのです。個別研修の依頼ですから、最初は「ロープレをしようか」などいろいろ考えたのですが、まずは彼の状況を見極めることが重要と考え、直近10組の成約にいたらなかった見込み客の話を聞くことから始めました。その見込み客の属性や「なぜ成約につながらなかったのか」といった内容を、時間をかけて細かくヒアリングしていくと、年配の男性に対して遠慮しがちでクロージングがうまくできない傾向があることが少しずつわかってきました。そこで私は、その原因を彼の学生時代や生い立ちにまで深掘って一緒に考えることにしたのです。

― その結果、原因は判明したのでしょうか。

　ええ。その営業スタッフは幼少期からシングルマザーの家庭で育ち、父親くらいの年代の男性と接することに苦手意識がありました。会話を遠慮して自らクロージングをやめてしまう傾向にあったことは、本人すら自覚していませんでした。個別研修を通じて売れない本当の原因に自ら気づくことで、彼はなんらかの解決策をつかんだようでした。

　その後、彼は社内の月間売上記録を更新するまでに大きく成長していきました。これには、その不動産会社内でも「すごい」と評判になりました。すべてが私のおかげだというつもりは毛頭ありませんが、少なくとも彼はどこか心につかえていたものを吐露できたことで、マインドが変化したことが影響したのかもしれません。この成果を受け、「ほかのメンバーにも個別で研修してほしい」ということになり、その結果、１年をかけて会社全体の売上が昨年対比で140％、離職率も70％から14％に減り、採用研修費を2,000万円削減することができました。この経験から、テクニックやノウハウを教えるのも重要ですが、1on1の「個別型」研修で一人ひとりに徹底的に向き合うことの重要性を私自身が学んだのです。