― 教えることの喜びとはどのようなものですか。

　教えるというより、子どもたちに教わる事の方が大きいです。毎日が感動の連続です。小さな子どもはもちろん、大人でもそう。生徒さんの日々の成長を目の当たりにできるのはこの上ない喜びです。

　音楽を通してどう育っていくかということを思い描く、そんな喜びですね。子どもと一緒に子どもたちの未来をつくっていく。それを自分でイメージしていくことはとても楽しい事です。

― 子どもは、音楽によってどのように成長できるのでしょうか。

　子どもが「自分から学ぼう」「自分で上手になりたい」と思ってくれれば、先生の仕事はもう終わったようなものです。つまり、決してやらされるのではなく、自分の意志で、自分の力で頑張る。子どものそうした気持ちや意欲を育んであげる。それを音楽というものを通して教えてあげることで、成長へと導くことができると思っています。音楽を通じて、子どもが成長していくための意欲を育ててあげたいのです。

　私の生徒さんは、発表会では失敗ばかりなんですよ。でも、それでいいんです。なぜなら、技術よりも楽しむことを優先しているから。重要なのは今じゃない。そこで子ども自身が気づいて、次は頑張ろうと自分で思えることが大切で、そうした気持ちを養うことこそ大事だと私は思っています。

― 今の音楽教室を取り巻く状況についてはどのようにお考えでしょうか。

　たとえば、音楽が競争の材料になってしまっていることはとても残念です。ともすれば親御さん同士の競争を生み出してしまっていることもあります。音楽は、決してそんなものではありません。

　私は、発表会には生徒さんを出しますが、コンクールには一切出しません。実は私も、若い頃には自分の生徒をコンクールに参加させていました。でも、有望だと期待をかけて、あるコンクールで本選にまで残った1人の子が私に言ったんですよ。「先生、賞はみんなにあげてほしい」「どうしてみんなにあげないの？」って。

　それを聞いて、本当にショックでした。自分は何をやっているんだろうって。子どもは賞のために音楽をやっているのではない。それをやらせているのは大人のほうだと。それ以来、コンクールを目標にすることは一切やめましたね。

― 音楽のレッスンを通して生徒に何を得てほしいと考えていますか。

　少子化の進む現在の幼稚園事情があり、園児確保のための幼稚園間の競争でハイレベル化が加速し、いやでも園児たちに過度の負担をかけてしまっています。遊びの中から多くの事を学んで行く大切な時期にもかかわらず、自由を奪われた子どもたちの未来は、決して明るいものではありません。さらに、学歴崇拝、特定の学校への一億総傾斜といった社会においては、中学受験、高校受験のためにおけいこ事を中断せざるを得なくなります。受験以外のことは全て余計、と冷酷に非人間的に片づけてしまう風潮さえあります。

　厳しい受験競争の中、塾通いを余儀なくされ、心に余裕の持てない現実。そんな時代だからこそ、未来を担う子どもたちには心豊かに育ってほしい、美しいものに感動し、悲しみに涙する心を持った人間になってほしいと強く願わずにはいられません。音楽を通して、そうした大切な心を育んで行ってほしいと願っております。